4月~6月以外にも注意!社会保険料はどうやって決まるのか
会社員が控除される社会保険料とは?
皆様の給与明細の「控除」欄を見てみてください。「厚生年金保険料」「健康保険料」などの項目で多額の控除が発生していますよね。これらを「社会保険料」と呼びます。「社会保険」という言葉は、広義には「年金」「健康保険(介護保険)」「雇用保険」「労災保険」を含むのですが、狭義には「年金」「健康保険(介護保険)」のことを指します。「年金」「健康保険(介護保険)」だけで報酬の約15%が控除されているはずです。4~6月の給与によって1年間の保険料が決まる!と思っている方も多いですが、必ずしもそうではありません。以下、社会保険料がどのように決まるのか、解説します。
※「雇用保険」は算出方法がシンプルで金額が小さいこと、「労災保険」は全額事業主負担のため、このページでは解説しません。
社会保険料の決まり方
社会保険料算出の計算式
社会保険料の計算式は以下のとおりです。
給与…「標準報酬月額×料率」
賞与…「標準賞与×料率」
「標準賞与」とは、支給された賞与の金額を1,000円未満切捨にしたものです。つまり、賞与にかかる社会保険料は、概ね支給額に料率をかけた金額になります(厚生年金の場合は1回につき150万円、健康保険の場合は年度あたり573万円の上限があり、上限を超えた部分に社会保険料はかかりません)。
「標準報酬月額」とは、毎月の給与などの報酬を定められた等級表に当てはめたもので、等級が変わらない限り、毎月の実際の報酬額には関わりなく、同じ金額が控除され続けます。等級表は以下のとおりです。
例えば、報酬月額が232,000円であれば、標準報酬月額は240,000円(19等級(厚生年金は16等級))となります。報酬月額が845,000円であれば、標準報酬月額は、健康保険830,000円(40等級)厚生年金650,000円(上限の32等級)となります。
報酬月額(社会保険上の報酬)って何?
社会保険料の金額を算出するためには「標準報酬月額×料率」の計算をしなければいけません。そのためには「標準報酬月額」を決める必要があり「標準報酬月額」は「報酬月額」を等級表に当てはめるとわかる、というところまで説明しました。難しいですね…。
実際に計算するためには「報酬月額」とは何か?を知っておく必要がありますね。「報酬月額」とは、毎月「労働の対償」として実際に受ける「報酬」のことです。「報酬」には、基本給、時間外手当、通勤手当(6カ月定期相当額を6カ月おきにまとめて支給される場合は1/6の金額を参入)住宅手当、家族手当、通勤手当等の毎月金銭で支給されるもの(給与明細の支給欄に記載されているもの)ほぼ全てが含まれます。臨時に支給されるものは「賞与」と扱われるため「報酬月額」には含みません(年3回までの「賞与」等)。また、結婚祝金や弔慰金等「労働の対償」ではなく「恩恵」的なものは除外されます。金銭で支給されるもの以外では、住宅を貸与されている場合や食事を支給されている場合は「現物給与」として「報酬月額」に含みます。
↑この段落は頭がこんがらがるのでわからなければ飛ばして構いません。給与明細の「支給欄」のほぼ全てと、住宅や食事の現物で支給されるもの(給与明細に記載されていないもの)が含まれることだけ認識しておいてください。自分の場合何が含まれているのか?は給与計算を担当している部署に聞いてみるのが早いです。
2022年度の社会保険の料率
2022年度の「厚生年金保険料」「健康保険料(介護保険料)」の料率は以下のとおりです。
「厚生年金保険料」…………………18.30%(労使折半のため、従業員負担は9.150%)
「健康保険料(介護保険あり)」…11.45%(労使折半のため、従業員負担は5.725%)
「健康保険料(介護保険なし)」…09.81%(労使折半のため、従業員負担は4.905%)
※厚生年金保険の料率は全国全ての被保険者で一律ですが、健康保険(介護保険)は加入されている健康保険組合により異なります。ここでは、協会けんぽの東京都の料率を示しています。
※介護保険料を給与から徴収されるのは、40歳~64歳の方ですが、加入されている健康保険組合によっては被扶養者が40歳~64歳の場合介護保険料が徴収されます(特定被保険者制度)。
25歳(協会けんぽ東京)で報酬月額が232,000円であれば、標準報酬月額は240,000円なので毎月の社会保険料は以下のとおりとなります。
厚生年金保険料…240,000×9.15%=21,960円(A)
健康保険料………240,000×4.905%=11,772円(B)
合計(A+B)………21,960+11,772=33,732円
標準報酬月額はいつ改定されるの?
標準報酬月額はいつ決まるのか?について説明します。「4~6月の給与で1年間の保険料が決まるから、この時期は残業しない方が良い」とよく言われますが、それ以外でも変わることがあります。育児休業復帰時などの特殊なケースを除くと以下の3パターンです。
1.資格取得時(入社時)
入社時は報酬の実績がないため、会社が見込みで報酬月額を年金事務所・健康保険組合に届け出て標準報酬月額を決定します。
2.定時決定(4~6月)
何もなくても毎年4~6月の報酬額を平均して標準報酬月額が改定されます。この改定は9月分から適用され、翌月徴収の会社であれば10月給与から改定後の社会保険料が徴収されます。
3.随時改定(随時)
「固定的賃金」に変動があった場合に、標準報酬月額が改定されることがあります。次の項目で説明します。
「随時改定」って何?
4~6月以外のタイミングで標準報酬月額が変わるのは、大抵「随時改定」の対象となった場合です。「随時改定」とは、「固定的賃金」の変動があったとき、変動月から3か月間の報酬月額の平均に基づいて標準報酬月額を算定した場合に、従前の標準報酬月額と2等級以上の差が発生する場合に改定が行われ「変動月からの3か月間の翌月」から標準報酬月額が変わります。難しいですね…。
随時改定の発動条件
1.固定的賃金が変動した
2.変動月から3か月間の平均報酬月額が従前等級より2等級以上変動
「固定的賃金」とは、毎月固定で支払われる報酬のことです。残業代や、回数に応じて支払われる当直手当、夜勤手当などは「固定的賃金」ではありませんので、いくら変動しても「随時改定」の対象になりません。「固定的賃金」の典型は基本給で、昇給や降給が発生すれば「随時改定」の可能性があります。それ以外だと、毎月同じ額が支払われる、住宅手当や家族手当、通勤手当(通勤経路の変更や運賃改定の場合含む)も「固定的賃金」です。注意が必要なのは、「現物給与」も「固定的賃金」となる場合があることです。例えば、住宅を貸与されている場合「現物給与」としての評価は、その住宅の面積に厚生労働省告示で示された単価を乗じて求めるのですが、この単価が改定されると、これも「固定的賃金」の変動となります。(これは給与明細には記載されていないため、単価改定をホームページ等で見ておかないと察知できません)
「随時改定」になる例、ならない例
従前の標準報酬月額240,000円の方を例に、随時改定について見てみましょう。
1.時間外手当がアップ
10月から時間外手当がたくさんつくようになり、10~12月の報酬を平均して等級表に当てはめると、4等級アップになります。しかし、時間外手当は「固定的賃金」ではありません。「固定的賃金」が変動していないため、「随時改定」は発生せず、標準報酬月額は引き続き240,000円のままになります。
2.家族手当と時間外手当がアップ
1.の例との違いは、家族手当が5,000円増額されていることです。時間外手当の増加は同じです。このパターンでは毎月固定で支払われる家族手当が10月から増額されており「固定的賃金の変動」に当たります。また、変動月からの3か月の報酬を平均して等級表に当てはめると、2等級以上の変動になりますので、「随時改定」が発生し、1月分から標準報酬月額は320,000円に改定されます。
3.家族手当がダウン、時間外手当がアップ
10月に家族手当がダウンしましたが、時間外手当が大幅にアップしたため、10~12月の報酬月額の平均を等級表に当てはめると3等級アップになります。この場合は「随時改定」は発生しません。「随時改定」は固定的賃金が変動したのと同じ方向にしか発生しないことになっており、固定的賃金が下がった場合は、上がる方向への「随時改定」はされないのです(逆も同様です)。
「固定的賃金」の変動がカギ
まとめると、4~6月給与に基づいて社会保険料(標準報酬月額)が見直される「定時決定」以外で注意すべきなのは「固定的賃金」の変動から3か月間の平均報酬月額が2等級以上変動した場合に行われる「随時改定」です。「随時改定」は「固定的賃金」の変動がきっかけになるため、「固定的賃金」である、基本給や毎月金額が固定されている手当が変動したとき、社宅などの現物給与の単価が厚生労働省告示で変更されたとき、引越をして社宅の面積や通勤手当が変わったときなどは変動からの3か月間は、4~6月同様に注意する必要があります。
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