サラリーマンはなぜ宝くじを買うのか
皆様は宝くじを買ったことがありますか?
私も会社員だった頃は定期的に宝くじを買っていましたが、最大で1万円しか当たったことがなく(本当に当たらないので1万円でもかなりうれしかったです)、1万円当てたいなら競馬など他のギャンブルの方が楽しいし当たりやすいよな…と思いながらも中々宝くじを買う習慣をやめられませんでした。
別に宝くじを買うのが悪いと言いたいわけではなく、なぜサラリーマンはこれだけ当たらない宝くじを買ってしまうのか、という切り口からサラリーマンとは何か、働くとは何かについて考えてみたいと思います。
宝くじの還元率は「当せん金付証票法」という法律で50%を超えてはならないと定められていて、実際には45%程度で運用されているようです。宝くじの売り上げが10億円あったら、当せん金に回るのは4億5,000万円程度ということですね。宝くじは高額当せんがあるため、体感的にはそれ以上に当たらないという感覚があると思います。
宝くじ購入者の多くは、宝くじが割の悪いギャンブルで、当たる希望が0に近いということを知っています。それなのにどうして買ってしまうのでしょうか。そのお金を何かもっと有意義な投資や楽しい遊びに使った方がよいと客観的には考えられるのに、そう行動しないのには何かそれなりのロジックがあるはずです。
私が会社員時代に宝くじを買っていた理由は「朝の通勤電車の中で宝くじが当たって働く必要がなくなる日」について妄想して、これから1日働かなければならないという現実から目を逸らすためでした。(私はしませんが)嫌なことを忘れたくて酒を飲むという行動に似ているかもしれません。
当時の仕事が耐えられないほど苦痛だったとか、メンタルをやられてしまっていたということではありませんが、(特に大企業の)サラリーマンには独特のストレス構造があったように思います。まず、サラリーマン生活というのは給料は時間の経過によりもらえるという事実があり、次の給料日までいかに厄介ごとに巻き込まれないかが最大の関心事となりやすく、基本的に受け身になりやすいものです(私がダメリーマンだっただけ?)。問題意識をもって主体的に行動を起こしたとしても、報酬が増えるわけではなく面倒ごとが増えたり敵を作ったりするだけで受け身の姿勢が最も合理的なのです。これは会社や部署にもよると思いますが、大企業の多くはそうだと思います。常に肉食動物が襲ってくる可能性があるサバンナで周囲への警戒を怠らず、危険を感じたら素早く逃げなければ食べられてしまう(そして時折失敗して食べられる)というイメージです。
受け身の姿勢、逃げの姿勢というのは楽なようで実はとてもストレスが溜まります。潜在的な課題に気付いていても、自分からその問題に触れてはなりません。最初に発言したものが面倒ごとを引き受けることになるからです。表面上はやる気に満ちているように振舞いつつ上手に逃げる所作が必要で、しかもその行動に何ら生産性はありません。言動に矛盾があると自覚しながらそれを糊塗し続けるのは高度なバランス感覚が必要で疲れることであり、仕事へのやりがいや自尊心をも毀損していきます。尚、やる気のある建前どおり行動するというやり方もあるのですが、その戦略を取る場合評価に繋がらない面倒ごとを大量に抱え込むことになりやすく、潰れるリスクが高まります(ストレートにやると搾取されるだけになるため、違う意味で立ち回りの器用さが必要)。サラリーマンの世界では「貢献」と「評価(報酬)」がうまく結びついていないためにこういった現象が起こるのではないかと思います。とにかく、働かないと生活が成り立たないという前提においては「逃げ」と「やる気あるっぽい姿勢」のバランスを取りつつ潰れないように会社の中を泳いでいく必要があるのです。
サラリーマンの世界では「貢献」と「評価(報酬)」がうまく結びついていないという問題について更に詳しく述べます。会社は利益を上げるために存在していて、そのために従業員を雇います。従業員は給料を貰って生活を成り立たせるために会社で働いています。会社としては従業員により利益につながる行動をして欲しいが、できるだけ報酬を払いたくありません。簡単に言えば、コスパの高い従業員(少ない報酬で大きな貢献をする従業員)になってもらおうとします。一方、従業員はいかに楽をして給料をもらうかを考えています(自己成長のためとかそういう高尚な目的を持っている人もいますが、それはそれです)。従業員にとっては会社の思惑通りのコスパの高い従業員になることは、自分の人生にとってコスパの悪い行動です。つまり、利害が一致していません。
また、大企業であるほど細かい分業にならざるを得ず、業績に対してどの従業員がどのくらい貢献したかを正しく計測することがそもそも困難です。そうなってくると、会社は報酬の総枠を抑えようとするし、従業員はいかに苦労せずに自分の「貢献」をアピールするかが関心事となります。更に、労働法上の様々な規制により、報酬を下げることが難しいため、会社は報酬を上げることに慎重になりますし、一度報酬が上がった従業員はその後のパフォーマンスが悪くても報酬を下げるのは難しく、その矛盾のしわ寄せが若手従業員や非正規労働者の賃金の安さに向かう場合もあります。とにかく、貢献と報酬がイコールにならなければならないほど、従業員は会社に貢献する行動を取らなくなるし、会社は報酬を出し渋るという状況が生まれやすくなるのです。
さて、話がサラリーマンの愚痴っぽい方向に脱線しつつありますが、このような不毛なストレスから解放される一番簡単に思いつく方法が「宝くじで高額当せんをゲットして働く必要がない経済状態になること」です。私は宝くじでは1万円しか当たったことがないのでわかりませんが、恐らく「もう働かなくても一生食べていける」という状況になれば、実際に会社を辞めなくてもかなりの程度ストレスは減るでしょう。いよいようまくいかない場合は辞めればよいと開き直ることができ、周囲の評価などを気にせず「仕事」に集中できるようになるはずです。お金のため(生活のため)に縛られて働いている状態は、極端な表現をすれば、喉元に刃物を突き付けられて働いているようなものです。
この問題を解決するより前向きな方法は、自分の能力を向上させ、いつでも転職・起業できるような実力を身に付けて「いつでも会社を辞められる」という状況を作ることかも知れません。ただ、転職についてはあまり回数が多くなると労働市場での評価が下がるため、そうそう切れるカードではありません。「嫌になったら転職」というより「転職によってより働きやすい環境に移る」という使い方の方が良いと思います。起業については本当に自分に成功できる実力が備わっているのかはやってみなければわからず、本気で起業というリスクをとる覚悟のある人にしか現実味のある選択肢として持つことは難しいのではないかと思います。
ここまで考えた結果「サラリーマンはなぜ宝くじを買うのか」の答えは「現実逃避」でした。逃避したくなる現実が生まれる原因は「お金(生活)のために働かなければならない」という状況にあります。そして、現実的な解決法は「転職や異動により働きやすい環境へ移ること」くらいしか思いつきません。低資産FIREが流行したのも「宝くじを当てるより現実的な方法でサラリーマン労働から逃れたい」という目線で色々考えた結果なのだと思います。
「サラリーマンとして成功するためにも資産が多い方が有利である理由」「AI化が進むことでサラリーマンは楽になるか」についても書きたかったのですが、長くなってきたので一旦ここで切ります。お読みいただき、ありがとうございました。
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